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Kate Bush 「This Woman's Work」

The Sensual World
Kate Bush
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 なんだか、出かける前から、妙な寂しさを覚えていた。
 あれはいったい、なんだったのか?


 雨が降っていたから? 
 夜、遅い時間に遠くまで出かける用事があったから? 
 まだ身体の調子が思わしくなかったから?


 何か、心細い感じが少し。。。。


 そんな気持ちのまま、目的地へ向けて車を走らせた。
 
 

 今夜は、翌朝に行う予定だった作業を、無理を言って、前倒しにしてもらったのだ。夜の方が、移動の時間がかからないし、翌日からの業務を改めて見直してみると、この方が何かと都合がいいと思って。。。体調も、予想以上に早めに回復してきたことだし、今晩、済ませてしまおう、と。。。

 約束の1時間30分前に出発。先日から、よく聞いているKate Bushのアルバム「THE SENSUAL WORLD」をBGMに、1時間ほどのドライブ。

 10曲目。「This Woman's Work」に差し掛かったとき、明らかに、心揺さぶられるものを感じた。

 もともと、この曲は、名曲である。心揺さぶられるのは当然。だが、ただ感動する。。。というのではなく、何か、それ以上のものがそのとき、僕に届いたような気がした。

 それから目的地に到着するまで、アルバムはその曲をリピートすることになる。何度繰り返して聴いただろう。しまいには、突然にまた、こみ上げてくるものが。。。


 これまで、ずっと大切に抱えていたものが、時間がたって、少し色あせてきて。。。


 今まで言葉にならなかった思いが、少し、形を見せてきたような。。。


 途中の交差点で停車したとき、そんなことをぼんやり考えていた。
 そうこうしていると、目の前には目的地が。。。
 仕事の時間だ。


 薄暗い地下室で独り、黙々と作業。。。今晩のこの、空虚な地下室の感じは、若かりし頃の、なぜかコンサートや音楽劇の制作進行をやることになった時代のときのことを僕に思い出させてくれた。劇場やギャラリーの、人気のなくなった時間帯もまた、妙に心地よかったりする。深夜の楽屋口。。。独り薄暗く長い通路を、疲れた身体をいたわるように、少しうつむき加減で通り抜け、寝静まった街中に出るときのあの感じだ。満場の会場から沸き上がる喝采とは対照的な静けさ。。。舞台が上手く行ったときの充実感。。。終演後、自分の仕事に戻るために打ち上げにもでられず楽屋口を駆け足で駆け抜けていったときの寂しさ。。。そんな青い時代の想い出がいくつも浮かんできた。

 滞りなく作業が終了したのは。。。多分、22時前。作業時間にして30分ほどだったろうか。それから、居残って作業に立ち会ってくださったスタッフさんとしばし談笑?したのち、家路へ。すっかりあたりは、激しい雨が。。。ちょっとだけ、また寂しい気分。。。

 イグニッションキーをまわすと、車内にはもちろん「This Woman's Work」が再び流れ出す。。。帰り道は結局、ずっとこの曲を聴いていた。

 雨の影響で、普段よりも遥かに低速走行を強いられた第三京浜。僕は法定速度をキープしたまま走行車線を安全運転。たけど、こんな状況でも急ぐ車は後を絶たない。僕の目の前を、何台もの車が右往左往しながら通り抜けていった。赤いテールランプが描く軌跡は、まるで、流星群の尾っぽを見ているようで、それぞれ違ったスピードで、僕を取り囲むように目の前を駆け抜けていく。僕の車だけ、どこか別の世界にいるような錯覚さえ覚えた。


 ずっと大切に抱えていたものが、時間がたって、少し色あせてきて。。。


 なんだかわからない、自分を抑制していた何かから、ようやく、抜け出せそうな気がした。いや、抜け出さないといけない。。。。今夜のどうしようもないこの気持ちは、きっと僕に、そのことを気付かせようとしてくれていたに違いない。


 「This Woman's Work」


 この曲に、どんな想い出もないのに。。。
 言葉の意味だって、感じようとしていないのに。。。


 本当に、音楽の力は、計り知れない。

 だからこそ、僕は、今も音楽を続けているのだろう。


Kate Bush「This Woman's Work」
アルバム「The Sensual World」より